〈花火〉
その仕掛けはとても大きく、地下へもぐればもぐるほど、穴も大きくなっていき、はじめはキータの頭がぶつかりそうなほどの天井もいつしか見上げるほどになって行く。
ようやくたどり着いた仕掛けの前に、キータは迷うことなく足を進めた。
そして、たったひとつのレバーに手をかけ、ハッチを開けた。
そこは岩か土しかなかった世界に突然現れた。あらゆる大きさのボタン、ランプ、レバーとキー。それらを迷いなくキータは解いてゆく。
キータはこの部屋には来たことがなかった。穴を掘ったのも、階段を形作ったのも、仕掛けを施したのも自分と仲間たちだったが、ここだけはおそらく主人たちがこしらえたものだった。
それがなぜ、よどみなく明かりが点き、ボタンは沈み、キーが回り、レバーが最後に下ろされるのを自分が知っているのか。
まるで腕と頭脳が別々のものであるかのようだった。
キータは今までのことを思い出していた。
キータは静かに目を閉じると、アクセルの額の文字を思い浮かべた。
「meth」
なんと冷たい響きだろうか。意味が分からないまでもアクセルの光ない瞳がキータの熱さえも奪うようだった。
「emeth」
アクセルの額には「e」が無かった。無い、というより乱暴に削り取られていた。
アクセル。
アクセル。
嗚呼、アクセル……!
キータはアクセルの立派な黒い身体を思い出していた。
キータはミルク屋のおじさんとの声を思い出していた。
キータはバターの匂いを思い出していた。
キータは魚の燻製を食べる子猫を思い出していた。
キータは子猫の小さな額の熱を思い出していた。
キータはテルミナルの雑踏を思い出していた。
キータは静かな丘の動かなくなった主人を思い出していた。
キータはアクセルのウインクを思い出していた。
キータは最後のレバーを引いた。

コメントを残す