ナターシャは食材を見繕いながら、央一の様子をうかがう。央一はスカーレットを興味深そうに見ていて猫背な後姿だけだ。
「まア、ちょっとネ。……俺のお袋が死んだときに、父親もいなかったし、ほかに俺が持っておくものが無かったってだけでサ」
「かんにんえ(ごめんね)」
「気にしてねエよ。親父がいなくなったのも笑い話みたいな話だし」
央一はカラカラ笑うと、振り返った。
「……忘れないのも、いいんじゃあねエのかな」
音々子が更に寝返りをうつ。
ナターシャはなにやら唸っている音々子を見やって言った。
「故人を偲ぶのもええガね。でもそれに憑りつかれちゃいかんにか。寄ってくるチャ」
「……ナターシャも、何かあったのか?」
「おらの話はいいガ。コーシチカは天性ヤチャ、媒介にされやすい体質のようやから、気をつけないといかんチャ」
「……ああ」
央一も音々子に視線を移した。するとちょうどまぶたをうっすら開けたところだった。
「で、飯なにすんのん?」
「芋とウインナーの」
「ジャーマンポテト? ロシア人なのに?」
「日本人ヤチャ」
ムスッとした声でナターシャが答える。
「ちんとしとられま(大人しくしていなさい)。まったく、ねんねのようやちゃ(こどものようだ)」
「ボクチンマダ子供だモーン! 女湯にも入るモーン!」
「はあっ!? 信じらんない! チョン切るわよ」
「わぉ! ねこちゃーん、オハヨーちゃん」
音々子はなにやらぷんすかと煙をだして怒っている。
「ウソよね、女湯に入るなんて! 入れるわけないわ! こんなでくの坊!」
「アッ、それどーゆー意味よ、ねこちゃあーん?」
「……コーシチカ、まめ(元気)になりすぎヤチャ」
ところが、
「ねこちゃんッ!? エエッ!?」
バターン!
と、音々子が再度ソファに戻った。
「なんか、……だるい」
「なになにセーリ?」
「チョン切ってミンチにしてやるわ」
「コワイコワイ」
「そりゃあそれだけ瘴気に当てられて、鶴子に取り憑かれたんだから、疲れも出て当然ヤチャ。むしろ、それだけで済んでラッキーながいゼ」
ナターシャがぽんぽんと音々子の頭を撫でた。
「ようけ頑張ったな。鶴子が良性でいかった」
「……気づいたらいたのよ、声が聞こえて」
「声?」
央一は声といわれて、彼らの最期の会話を思い出した。
「私の中の何者かが、ジャックを呼んでた。ずっと。……頭がぼうっとして、よく分からないことばかりだったけど、最後の感覚は、……何だか幸せな気分だったわ」

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