終章
「それで、ジャックは?」
「たぶん天に昇ったんだ……」
「ふうん」
「ふうんって……。信じられないかもしれないケドね、ケッコー感動的な最期だったのヨ?」
ナターシャの家は丘を正門と反対側に下りたところにある商店街を抜けた住宅地にあった。マンションの一室で、赤いカナリアを飼っていた。
全てが終わったあの後、ナターシャに報告と、音々子の介抱を頼みに図書館へ向かった。ナターシャとそこで落ち合う予定だったのだ。
音々子はナターシャ宅のソファに横たえられ、さながら眠り姫の様相ですやすやと寝息を立てている。その様子を見て、央一はなんとなくほっこりとした気持ちを感じていた。
「あの町には『いわく』がカッチャカチャしとる。そんなガ序の口やゼ」
「エ」
マジで? と央一が問いかけると、ナターシャはこっくりと頷いた。
「ハーッ、なんのこっちゃ」
「この花重綱町、現代はただの田舎の漁村のカッコウしとるけどンも、昔は相当栄えた港町やったという話ヤチャ」
「なるほどねン」
要は、それだけの人間の往来があると、その数だけのドラマがあり、悲しい出来事もあり、ということだ。
「加賀百万石はダテじゃあないってね」
「ジャックの件の時代でも、人口十万はくだらんチャ」
マジで? と央一が問いかけると、ナターシャはこっくりと頷いた。
「……俺、ずうっとこの町にいるケド、全ッ然そんなことみじんも考えたことなかったワ」
「学校で歴史習ったやろが」
「ソだけどサ」
「まあ、学校なんかで教えてもらうのはそれこそ表向き。今を生きていく人間のための情報。……死んだ者のことは忘れた方がいいガ」
ナターシャが席を立つとキッチンに向かった。
「飯、食ってくか?」
「いいのーッ!!??」
「スカーレットがおるけどンも、独りの夕食は寂しいもんナガ」
「あ、このままお泊りコースとかッ?」
「だらが(バカか)」
ちなみにスカーレットはその赤いカナリア。古き良きアメリカの名作ヒロインからとったようだ。
音々子が寝返りを打つのを見届けて、央一はスカーレットのカゴを覗いた。つぶらな黒いひとみが「誰?」と言っている。
「……俺、死んだ人のこと覚えてるのってヨクナイノカナーっなんて考えたことあるけど、別にイイもワルイもねエんだなって最近思うよ」
「……」
「忘れたくても忘れられるもんじゃあねえし、そこにあるんだから、記憶がサ。しようがないのよ、って思うのヨ、ね」
「……何かあったガ?」

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