ボクらの鎮魂譚 - 61/66

央一はヨカッタヨカッタ、と頷き、やっと一息つく。

『行きましょう。ずっと待っていたのよ、この時を』
『ああ、行こう。君とならどこへでも行ける』

そこで首飾りを下げた音々子が振り返った。

(……エッ!?!?)

それは音々子……ではあるのだが、顔つきがまるで違っていた。
別人だった。

(まさか、ご本人登場デスカ!?)

快活そうなほほを満面の笑みで火照らせ、ジャックの胸に飛び込んだ。

それは間違いなく、音々子の仕種ではない。鶴子のものであった。

『いきましょう』

それから熱く包容を交わした両者は数秒の後、膝から崩れ落ちた。
糸が切れた操り人形のように力が抜けて行った。

「……ッ、ねこちゃん!」

央一は咄嗟に駆け出し、音々子を倒れ込む前に受け止めた。

いままで足元を覆っていた白いもやは、今、ジャックの方へ集束しつつあった。

「今度は、ナンダーッ!?」

膝をついたまま、ジャックは天をあおぐようにして動かない。まるでそういう彫像がそこにあるかのように、生物然というものが感じられなくなった。元から死んではいるのだが。

集まって来たもやは首の無い男を囲み、覆い、編み込むようにして柱を作った。

白い頼りない景色の中に、闇をまとっていた存在がとかされていく。ほどかれていく。

やがてもやだったものは窓辺で日に当てられて舞うホコリほどの大きさになり光の粒子となった。ジャックの衣服に吸い付き、ほたるのごとく、ぴかりぴかりと瞬いている。

(アー、これが、死の世界)

央一は唐突に思った。

これまでは死ぬとは、罰や、拷問や、粛清、贖罪。そんなイメージをまとっていたのだが、これは何かチガウ。

(死ぬって、なにもなくなるんだ)

頭の無い首の断面が、涙の一滴ほどの血を、さいごに滴らせた。

ぽたり。

そして、その鮮烈な赤さえも飲みこむように、光は大きく広がり、央一の目の前は抱いている音々子さえ見失うほどの目映さに包まれた。

(息すらもいらない。ぼうっとするな)

静かに目を閉じ、次にまぶたを開けた時には、――チャイムが鳴っていた。

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