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(ジャック、ねこちゃんを狙っている)
血のちょっとした噴水になっているジャックの背中を見ながら央一は焦っていた。
なぜなら身体がうまく動かないからだ
(慌てるな俺様! 作戦通りに、やるんだ!)
そうだ。ジャックをおびきだしたまでは作戦通りだ。
もう一度央一はポケットの中を手触りで確認する。
そこにはこれまたナターシャからの借り物、青いフェイクが嵌め込まれた大ぶりの首飾りが央一の指先につるりとした質量で応えた。
(大丈夫だ、集中しろ……!)
ジャックはずるうり、ずるうり、ゆっくりと音々子の背後に近寄って行く。
央一も金縛りでしびれる脚をなんとか前へ持っていく。
ジャックを刺激しないように、気配を消すつもりで、足を引き摺って行く。うっかり央一の存在が見つかってしまえば逃げられるだろう。
息を殺す。
(もう少し、もう少し……)
音々子が立ち止まった。
廊下は薄暗くのび、空間は白っぽい。
音々子はそこに影を落としながら、一切動かなかった。
ここが、終点だ。
(ここで……終わらせる!)
すっとのびた音々子の背筋。長い黒髪。
『ヒュー……ゥ……ゴポッ、ヒュー……』
近寄る血まみれの首の無い男。
腕をのばした。
(ここだ!)
央一は力の入りにくい足の裏にぐっと運動感覚だけで踏み込み、いっきにジャックの背中まで距離を詰めた。
『鶴……子…………さん』
「!」
聞こえた。
(奴さん……、本当に鶴子さんのコト……)
ああ、今自分が何をしようとしているか。
一体化するような心地だ。
(ずっと呼んでいたのか、探していたのか……。俺はジャックのを介して、ジャックは俺の手を介して、鶴子さんに悲願のネックレスをかけるんだ)
ちゃら、と金具の音をさせ、ポケットからそおっと首飾りを取り出した。
図書館の資料で見たような豪勢なものではないが、その青いフェイクには央一が覗き返していた。
『鶴子……さん……』
伸びた腕は優しい手つきで音々子の髪に隠れたうなじを目指す。
央一はジャックの背後から、先回りして音々子の黒く長い髪をひとまとめにして胸の方へ流してやった。
血が噴き出す。
央一は冷たいしぶきを顔面に受けた。血潮だ。ジャックの首から飛び散ったものだ。
しかしそれらをものともせずに、央一は首の無い男の手元をその肩越しに注視した。

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