ボクらの鎮魂譚 - 56/66

生ぬるい風が、一瞬央一のくるぶしソックスの上をなぞった。

しかし、まだジャックの姿は見えない。

(どこに現れたかは、不明。いやしかし、絶対にねこちゃんを見つけるはずだからな! 俺も急がねば)

央一は一応音々子が見つからなかった階も見回してから階段に足をかけた。

なんとなく、自分も足音や気配を消すように歩いていることに気付く。

(変な汗が流れてるな……)

ワイシャツの背中がじっとりと湿っている気がする。
手にも汗特有の湿り気を感じる。

(これがうまくいけば……、ジャック!)

彼は本当に救われるのだろうか。

(そんなことはいいんだ、ねこちゃんが待ってる……)

階段を上りきった。ここだけがひんやりと、違う空気感を醸し出している。
まとわりつく雰囲気はあの、異人館の奥の暗闇を思い出した。

(いた! ねこちゃんだ!)

音々子はイギリス帰りのお嬢さんのように、草花の模様のオーバースカートを引きながら変わらず歩いている。

黒く、長い髪はひらりひらりと歩くテンポに合わせて上下している。

央一は安堵しながらも、額の汗を拭うのをやめられなかった。

(奴さん、どこから来る?)

廊下はどこも窓が開いていないのに風が通る。
足元は雲の上にいるように頼りないのに冷たい床が上履きを通して、その温度を伝えてくる。

(この階ではないのか? それとも……)

「ン?」

なんだか目の前が霞んで見える気がして、央一は袖で目頭を擦った。

……何ともない。

「な、んだ? ……チゲ、これもやだ!」

階下から風が押し上げてくるように、足元からふわりと白いものが漂ってくる。まるでスモークをたいたみたいだ。

「演歌でもうたえってかア!?」

(これは緊急事態といっていいのか……!?)

央一は音々子の後ろ姿が全く動じていないことに気付く。

(ねこちゃん……!)

あれは本当に音々子であっているのだろうか。
そんな考えが脳裏にちらつくほど、見る間に階層はあの世染みてきていた。

(大丈夫だ、あれはねこちゃんだ。信じるんだ)

しかしどことなく背筋に気品らしさを感じる。服装のせいだろうか。

『ヒュゥー……ゥ、ヒュゥー……ゥ……』

風の音が聞こえてくる。

央一は身体が金縛りに遭ったように動けなくなった。

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