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誰もいない廊下。
音々子だけがカラクリのようにするするとサテンを滑らせながら歩いている。
(まだ奴さん、こっちに気付いてねえらしいな……)
央一は腕時計を見計らって音々子の後をつけていく。
廊下の窓は閉まっていて、外とまったく遮断されている気分になる。
もう時刻は午後五時を回った。
(今日は、来ないのか……。いや絶対来る。なんせ、校内で今歩いている黒髪の女子はねこちゃんだけだ。必ずおびき寄せられてくるハズだ!)
暗くなるまでには時間がもう少しかかる。
ナターシャにはあまりにも危険を感じたら、即逃げるように言われていた。
(そうは言っても、やるって決めたらやりたいジャン? ねこちゃんが危険なのは重々承知。それを補うためのタッグだ)
やってやる。
央一の腹はもう決まっていた。
生餌をまいて十五分が経過。
音々子はまた階段を上がる。
音々子と央一が出会った廊下は通りすぎた。音々子は一本の廊下、校舎二つ分の一つの階の廊下を、たっぷり十分はかけて歩く。
「わ、なんだあの格好!?」
「ホントだあーなになに?」
OMG!
(予想外ッ! まだ生徒が校内にいたのネん!)
なんと制服のアベックが教室から飛び出してきた。
音々子の格好を指して言っている。
それは確かに中世の絵本から出て来たかのようなドレスをまとった美少女が学校の廊下をゆらゆら歩き回っていたのなら、目立ちマス。
「あー、……ちょいとキミタチ、静かにしてくれまいか。今ね、撮影中で……」
央一がなんとか誤魔化そうと人差し指を顔の前に立てながらアベックに言った。
「ええっ!? 何の撮影!?」
「うちの学校テレビ出ちゃうの!?」
(そんなワケないでしょうよ!)
「いやいや、えーと……映画部の一環で?」
「なあーんだ、文化祭用か」
「まだまだ先なのに、ご苦労様」
「あーははは……アリガト」
アベックが騒ぎ立てながら通り過ぎたのを確認して、央一はタメ息を吐いた。ハアーアっと。
振り返って一応再度確認。アベックの片割れはマッシュボブのいまどき風オンナノコ。よし。
「げっ」
(しまった!)
階段を上がったまでは見届けていたのに、上がってから、音々子の姿が見えない。
「見失っちまったってのかアッ?」
OMG! パート2
「もしかしてもう一つ上にそのまま階段上がって行ったのか……」
その時だ。
「――うぅっ、」
(この風は!)
窓は閉まっている。どこの窓も閉まっているのは、歩いて来たなかで央一は確認済みだ。
「来たな」

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