ボクらの鎮魂譚 - 54/66

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ドレスはナターシャに借りた。

不幸中の幸いと言うか、ナターシャはもう図書館を締める前にタイムカードを押す時間だった。
だからナターシャがひとっ走り自転車で丘を下り、央一と音々子は校舎の方へ向かったのだった。

「ねこちゃん、大丈夫か?」
「なにがよ?」
「いや……」

音々子に限って、いざという時に逃げ出すような小さな心臓はしていないと分かっていながら、何度もその質問をしてしまう。央一は自分にも役がありつつも音々子のおとり作戦に一抹の不安を覚えざるを得なかった。

おとり作戦。

作戦の内容はこうだ。

現在判明している首の無い男――ジャックの性質を最大限利用する。
それは、黒い髪を垂らした若い女性の背後にのみ現れ、首を絞める。

正確にいえば、あれは首を絞める動作ではなかったのだが。

「奴さん、このネックレスを鶴子さんに差し上げたかったんだ。……しかも自分の手で、かけたかったんだ」

央一はジャックの壮絶な最期を想像した。

最愛の女性に再び会いに、海を渡り、プレゼントを携え、それはもしかしたら駆け落ちの合図だったのかもしれない手紙は届かないままに、友人の別荘宅で大勢の土着の住民によって制裁を受け、そのまま死んだ。

ジャックは首が無い。

故に、視界が無い。

音々子が吉滝のご令嬢、鶴子の役だ。

音々子を吉滝鶴子に仕立て上げる。

「ジャックにネックレスを」

それから鶴子に首飾りをかけさせるのだ。ジャックの繰り返す死の淵に終止符を打つために。

「俺がジャックの背後に気づかれないようにまわって、ねこちゃんの首に手をかけそうになったらネックレスを持たせる」
「本当にそんなことができるかしら」
「ねこちゃんが言い始めたんデショー!! 自信持ってよ! やるしかナイッ!」

ナターシャに頼んで、それっぽい首飾りと、ドレスを借りることになった。

これで準備は整った。

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