「この中に? 尺骨茎状突起ともソイツの体型とも職業ともなんにも関係ないじゃあない。分かるわけないわ! 強いていえばみんな朗らかそうってところかしら」
「だよなア……」
タメ息。ナイスアイディアじゃあなかったか。
央一は並ぶ紳士たちを睨んだ。
「……間違いさがし」
「今度はなによ?」
「いや、人形ごっこ」
「もう、このヤロウ気持ち悪いわ! 考えすぎてバカになったの?」
「ねこちゃん、この紳士」
写真に写る狩りに向かう紳士のうちの一人を、央一は指差した。
「いすに手をかけてるこの紳士。首絞めちゃう? 締めない?」
「えぇ……」
血走った眼の央一の引き気味音々子。
「どうかしら。一応さっき見たところこの男の可能性もあると思ったけど。……でも」
音々子は眉間にしわを寄せるまでして再度、写真を見比べた。
「この男……よく見たらこの令嬢の方を見ているわ。仲好さそうだし締めないんじゃあないかしら」
「ビンゴッ!!!!!」
「はっ?」
「ねこちゃん!」
「だからその名前で呼ばないで」
「スミマセン! 奴さんの正体は、このいすに手をかけた紳士だ!」
バシッと指さす先には、伏し目がちに令嬢を見つめる一人の紳士。
「なぜそんなことが分かるの?」
「お待たせしましタ」
そこへナターシャが数冊の本を携えて登場した。
「まずはこっちゃ見んまいけ」
件の写真の本の上に新たな資料を広げる。タイトルは「オリバー邸と花重綱町の文化史」と書いてある。
「オリバー?」
「この異人館はオリバーという外人が建てたガ」
ぺらりと付箋の付いたページをめくるナターシャ。
「これ、今調べてくれたのん?」
「そうヤチャ」
「さっすが司書!」
「ねえ! この女の人!」
音々子が央一の背中をバシバシ叩いた。
「イタいイタいッ! わかってるって、吉滝のご令嬢デショ?」
「交流のあった有力者の一人だって書いてあるわ!」
まるで欧州貴族のお姫様のごとく着飾り、横顔だけのカメオのような美しい日本人女性の肖像画が資料写真として載っている。
「《吉滝家は日本海を通じて貿易船の管理を行っていた一大貿易商であり、また、江戸時代は加賀藩の重役として漁業に関する取締役として家を大きくした。》でもこの辺じゃあ聞かない姓よね? 」
「隣の市じゃあないかね? お、こんなことも書いてあるぜ。《貿易商を育てるための、今で言う小さな外国語学校を立てた》」
「ということは、この吉滝家令嬢も英語なりをたしなんでいた」
ナターシャが頷く。
「T県は今でもロシア人多いガ。昔も朝鮮人、ロシア、ほか大陸の人間が来やすい土地やったチャ」
しかし音々子はずっと眉をひそめていた。
「……でも何で、この紳士がアイツの正体だっていうの?」
「この?」
ナターシャも首を傾げる。
「俺の推理を聞きたいかい?」

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