「長い髪……」
「ン?」
「長い髪だわ、この人。この女の人、黒髪を長く垂らしている」
「! 本当ネ」
写真の令嬢は頭のてっぺんに洋服の色に合わせているであろうリボンを結び、現代でいうところのハーフアップという髪型をしていた。ただ前髪をひさしにしてあるところが時代を感じる。
「首絞めの事件と何か関係があるかもしれねエな」
「そうね」
「ねこちゃん、この写真で誰が奴さんか見分けつくか?」
央一に言われて音々子は写真をじっと見比べはじめた。
「ねこちゃん……コーシチカは透視能力でもあるんガケ?」
「なんて? こーし……?」
「コーシチカ。猫の女の子をロシア語で言うとコーシチカ」
「フフフン、なるほどね!」
やがて音々子は写真から目を離した。
「はっきりとは分からなかったわ。たぶんこちらか、こちらのどちらかの男。狩りをしに行く写真だからか、みんな手袋をはめていて」
「そっかそっか。ナイスファイ」
「ムカつくわ」
ナターシャはメガネをはずして写真を睨んでいる。
「なんちゅトリックけ?」
音々子の観察眼をシックスセンスと勘違いしているようだった。
「ナターシャ、外人ご用達っぽいこの館の資料はアリマセンカネ?」
「じわじわ追い詰めてやるわ」
「ヤアダ、音々子ちゃんたらこっわあーい!」
無言で足を踏まれた。
「あー、ちょっこ待っとッチャえ」
ナターシャは長い三つ編みを揺らして、また書架の奥へ消えた。
窓からは少し傾き始めた西日が差しこんでくる。蔵書を守るためのカーテンに隙があったようだ。
「……もうアイツの活動時間ね」
「まァ、今日も今日とて出てくるか分からんがネ。昨日あれだけ追い詰めてやったからビビってるかもヨ」
「まさか」
央一はほんの少しの間目をつむった。あの首の無い男の姿がまぶたに浮かぶ。
(お前、何でこんなことをしているんだ? なにが目的で首を絞める、殺そうとする……。いや、待てよ)
まぶたを開けると西日がまぶしい。
「どうしたのよ? 寝てたの? 立ったまま」
「ねこちゃん、もし! もしだけど、」
央一は写真にまた視線を移した。
「このご令嬢がこの中の誰かに殺されてるとしたら、……誰が容疑者か、わかったりする?」
「はあ?」
音々子は「気でも違ったか」という目で央一をジロリと一瞥したが、央一と一緒に写真に目を戻した。

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