「……なんでかしら。私が歩いていた方向は上からなんとなくわかるのに、どこにも無いわ!」
「確かにナ。わかっチャいたけど気味が悪ィ」
「あんまカーテン開けたら本が傷むんで、もう閉めるチャ」
目の前でカーテンが躍る。央一は振り返って、目頭を押さえた。明るいところは実は苦手な男だ。
ここで再び探偵ポーズの音々子。
「なら、もしあの中へ、館の中へあのまま潜入していたとしたら……?」
「今頃、ここにはおらんガいぜ。霊界に取り込まれたままヤチャ」
「若くても全然よくないじゃあないのっ!」
音々子が交ぜっ返し、央一はゲハゲハ笑っていた。
「だあケド、ねこちゃん」
目じりの涙を指でこすりながら央一。
「これで時代がしぼれる! ナターシャもいる! そうじゃあネエのッ」
「それもそうだけど……簡単にいくかしら?」
「ここで司書サマの登場だろッ!?」
ジャーン★ と手を広げてナターシャを示す。
ナターシャはそんな央一を涼しげに見遣りながら、また本のページをめくった。
「確か、後ろの方にあったガ……」
広げられたページに、音々子は目を見張った。
「……これよ! この建物! それに……」
その見開きにはモノクロの風景ながらも、見紛う事なき、あの異人館が写っていた。
木造でありながらペンキで白く塗られ、ドアは黄金の蝶番、ノブ。そして両開きのおおきな間口。ガラス窓は磨かれ、埃のひとつもなく、その時代には異様に映ったであろうとんがった屋根は異国情緒を偲ばせている。
しかし、その建物の前に一群の外国人男性たちが整然と並んでいた。
カメラの前にポーズをとり、狩猟のための服を着て、大きなハウンドを従わせている。そこには不思議なとりあわせなことに、一人、黒髪の日本人女性がいすに座っているのが一緒に写っている。
「誰?」
「これは吉滝(よしたき)家の令嬢といわれとッチャえ。花重綱の地元ではないガ、懇意にしとった外人がおっから記念の写真ちゅうわけナガいね」
「なるほど……」
その吉滝家の令嬢は外国紳士の中にちょこんと座っており、なおさら小柄に見えた。
しかし背筋をしゃんと伸ばし、いかにも利発そうな顔つきであでやかな洋装をまとって座っていた。
「珍しかね、この時代にこんな田舎で洋服着とんガ。さぞかしおとこめろ(おてんば)やったチャのではないガケ」
央一はその写真を見つめていた。
「この中に奴さんがいるかもしれねエんだな……」
「そういうことになるわね」
音々子もその写真を見つめる。

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