ボクらの鎮魂譚 - 41/66

「アイツはアンタから逃げていた。おそらくだけど、少なくとも何かから逃げるようにあの館へ入って行った」
「……なるほどな」
「なんでだかは、わからないけど……」
「それをこれから二人で調べるんダロ?」
「うん……」

本と棚の隙間から音々子の視線を感じた。

(俺には奴さんが俺たちを誘い込むように林に入って行ったと思っていた、だが)

音々子の方が近くで首無し男を追跡していた。

しかも、音々子には完璧な観察眼がある。

「そうだ!」

央一が頭から電球をピコンと光らせた。

「ねこちゃん、チョットチョット」
「え、なに……」
「あの手帳、もっかい見せてよ!」
「手帳?」

音々子は怪訝そうに自分のかばんから昨日も見せたあの小さな手帳を取り出す。

「ちょっと思い出したことがアルのよねン」

央一と音々子の二人は閲覧用の机につき、手帳を覗き込んだ。

「何が気になるっていうのよ」。
「ねこちゃんの見ていた奴さんの人物像サ」
「私の?」

央一は指を指す。

《尺骨茎状突起から見れば、男はそこそこ筋肉質。だけどムキムキではない。外仕事より中仕事をしている人に多い手首の肉付き。骨は意外としっかりしている。故に育ちはそこまで悪くなく、食事をしっかりと摂っている健康的な男性。色は白めでキズはなし。この白さは日本人ではない、白人? 白人は初めて見たわけじゃあ無いけどこんなに均整のとれた肉付きは初めて。金ボタンが彼の皮膚の薄さを更に引き立てるよう、血管は青く、彼は青いバラに囲まれた湖畔にこそ美しい》

最後の方はもはやポエムになりかけている例の分かりにくいような分かるような文章だ。

「こ、これは……っ、……これがどうしたっていうのよ」

音々子は少し頬を紅くさせて、ちょこっと不貞腐れるようにしていた。

「これが、ねこちゃんのスゲエとこナ。見たいものしか見えないって言ってたけど、こんだけの情報量、そうとう観察力が優れてなきゃあムリ!」

音々子はさらに頬を紅くさせて、「い」の形でくちびるを止めたまま固まってしまった。

「本当に、ねこちゃんと出会えてヨカッタぜ! こいつが手掛かりになる」
「もうっ! さっきからこっぱずかしいことつらつらとっ!」
「エ?」
「図書館ではお静かニ」

央一はとんとんとその文章をつつく。

「ここから奴さんの背景も読める! たぶん!」

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