「……音々子サン、俺が居ない間何があったんだい?」
央一は両腕を頭の裏に回して空を仰いだ。林はもうすぐ出られるはずだ。
「……」
だが音々子はだんまりだ。
入ってきた林の端を遠くに見た瞳は、珍しく、央一にはくらげの入ったガラス玉みたいに揺らいでいるように見えた。
「……きっと私にしか分からないわ。私しか見てないんだもの」
と、ぽつり。
二人の間にサクサクと足音が響く。
「ン? なんでそう思うのサ?」
「だって、私、また、こう」
と言って、こめかみに両手のひらをかざし、
「視線が、こうなっちゃって」
それから手のひらを内側にしたまま前方へしゃかっと動かした。
「ダメなのよ」
ハア、なんてしまいにはタメ息。
「何ナニなにナアニィッ!? ねこちゃんらしくないじゃあなあいッ!?」
「五月蝿いわね! これが私らしいのよ!」
央一は音々子の前に回ってじぃっと目を覗き込んだ。
「……な、なによ。邪魔なんだけど……」
その真っ黒な瞳には央一が見えた。
「ぅをおオッし!!!!!!!!」
「い、いきなり、今度は何なのよ!?」
突然ニワトリのように胸を反らして鳴きだした央一。音々子は耳を塞ぐ。
「俺はなにがあってもねこちゃんをしんじるぜェ」
「!」
央一のとび色の瞳には音々子が映っていた。
「なにがあっても、何を見てもねこちゃんを信じる。現に二人にしか見えないもの追いかけてるじゃあねえか」
音々子は金魚のように口をぱくぱくさせた、かと思うとぼんっ! と顔を真っ赤にさせた。
「な、なにを言って……!」
「フフフン? だってそうだろ? それにねこちゃんは俺を信じてくれた。まあパンツを見たのは怒ってたけど。だから、ってわけでもないけど、俺はねこちゃんを信じる。そんでもってねこちゃんを信じる俺を信じてほしい」
「……」
音々子は頬を紅くして、上履きのままの足元に視線を移した。
「……そうよね、今更だったわ」
「そうだろォッ!?」
「私の言うことを信じなさい! じゃあなきゃあチョン切るから!」
「ワオッ! さあっすが過激だぜ、ねこちゃあんッ!」
影に囲まれた林を抜け、舗装された道へ足を踏み出す二人。
「明日は図書館へ集合よ!」

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