(もう日が暮れるな……。奴さんのアジトか?)
校舎のようだがそれにしてはあまりにもこじんまりしている。けれども住宅にしては大きく、日本瓦なのに洋風の佇まいは異人館というのがやっとしっくりくる。
(いつからあった? かなり古そー……)
央一も音々子も学校の屋上には上がったことがあるが、林の枝葉に隠れていたのか、こんなものがこんな近くに建っていたとは露ほども知らなかった。
(奴さん、ここから来てたのか。建物に入っていく)
ドアは勝手に開き、吸い込まれるようにして男は異人館に立ち入っていった。
それに続こうとする音々子。
「ちょ、ねこちゃんストぉーップっっっ!!!!」
さすがにそれは止めた。
「あらいたの」
「……あら? 気付いてた? モシヤ」
「……」
音々子はそれには答えずに、洋風のその建物を見上げた。
「……私の推測だけど、それを確実のものにするにはこの建物が『なにか』を知らなくてはいけないわ」
「??? ねこちゃん何か分かったの?」
「まあ、少し。とにかく、ここを出るわよ」
央一がクエスチョンマークを頭上にポコポコ飛ばしているあいだに、音々子は歩き出してしまう。
「ねこちゃあーん! 教えちくりよオー」
「キモチワルイしゃべり方しないで」
「もおん、ひどオーい!」
くねっくねっと腰をひねる央一を、音々子が獅子をも殺さん眼差しで射った。
「チョン切るわよ!」
「エェ~ン、ねこちゃんがいじめるぅう」
さすがの音々子も舌打ちだけじゃあ済まない。
「えい!」
「ぎゃあ!」
央一のしりに音々子の回し蹴りが炸裂した。
「いいからさっさと帰るわよ!」
「もう、わかったよゥ、ワカリマシタ!」
央一はこうさーんの諸手挙げで歩き出した。
カラスが鳴いている。二人の撤退を囃し立てるようだ。
木々のざわめきも、夕方の風にあおがれて影を増す。日はもう暮れて落ちる寸前だった。
(この時間帯にあそこへ入り込むのは自殺行為ってモンだぜ)
自分の肩越しに、最後にあの異人館を一瞥した。
「早く行きましょう。寒くなってきたわ」
「ねこちゃんって、シックスセンス持ってんの?」
「は? 知らないわよ」
「ふうん」
「……なんかムカつく」
「無実だ!」
音々子はまたしても舌打ちしていた。

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