「!」
首の無い男は今、音々子に背中を向け、どこかへあの歩みを繰り出そうとしている。
(アイツが逃げる……!)
音々子は居ても立ってもいられず、追跡を開始した。
央一は寝こけている。そんなもの放置だ。
「姿が見えるうちに、アイツの正体を突き止める!」
姿を眩まされたらはじめにもどる、だ。音々子は足音も立てず、首の無い男より七、八歩離れて後を追った。
男はゆらゆらと陽炎のように歩きながら、確実にどこかを目指していた。
(どこに行くつもりかしら。次のターゲットを探している……?)
だとしたら、自分に何が出来るだろうか。
(少なくとも、被害者を出すことを食い止めることは出来る! というかする)
だが、そのあとはーー
(ええい、考えても仕方ないわ! 今は見つからないように、アイツを追うのみ!)
まったく、央一ときたらこんな時に寝てるなんて、と音々子は少しむくれる。助けてもらったことは一瞬たりとも過ぎらない。
首無し男は校舎から外へ出た。ほんの数秒ほどだったが、透明になり、音々子が目をこらしている間にまた元へ戻った。
(屋外でも姿は見えるようになるのね……)
生け垣、校舎、なぜか置いてあるカラーコーンへと、音々子は自分を隠しながら追跡を続ける。
男はそれと気付かないかのように、ゆらゆら校内を歩いていく。音々子は見ているうちに、男に影がないのを確かめた。
(幽霊に影がないのって本当だったのね。……)
そしてじっと見つめる。
(それにしてもいい尺骨茎状突起だわ。あの滑らかな流線、惚れ惚れする……。ナイスだわ、ナイスよ)
だんだん何のためにつけているのか、初心を見失う音々子であった。
(ああっ、袖が邪魔ね! ……ーーあれ?)
ふと音々子は思い出した。
以前、それは央一と初めて出会った日、音々子はあの首無し男を追いかけていた。
(あの時と、歩き方が違う……?)
何が違うかと言えば、音々子にしかわからないほんの些細なもの。
(歩くペースは変わらない。でも、尺骨茎状突起は今、青い血管を浮き上がらせたりしまったり、出っ張りが前に比べて強い。つまり……。
男は急いでいるッ!
しかもどこかへ向かって。
(突き止めなくては! あの首絞め犯がどこからやって来るのかを!)

コメントを残す