ボクらの鎮魂譚 - 33/66

「エエーッ!? ボクですかあッ!?」

央一としては心配だった。音々子を独りにしておくのは。

「い、一緒に渡ればいいじゃあないのヨ?」
「何のために二人で行動してんのよ! 手分けする頭くらい持ちなさいよ、このおバカ!」
「ハアッ? おバカですとぉッ!?」

そこまで言うのなら、やってやろうじゃんよ!! と央一までもがぷんぷんして飛び石のような上履き用の廊下を行くことにする。

向かい合わせの渡り廊下出入り口でぱっと見かくれんぼごっこなんて、どこのバカップルと見られるか。

「ねこちゃあん、こんなとこでいいかい?」

央一は向こう岸に着いて、手を振って確認をとった。

「そのふざけた呼び方止めたらいいわよ」

音々子は腰に手を当ててやはりぷんぷんしてる。

その脚のラインは非常に造形美を想起させるが、

「ねこちゃん! 伏せろッ!!!!」
「えっ」

その脚の後ろにもう一つの影が忍び寄っていた。

音々子の白い首筋に節くれ立った青白い両手が差し掛かるのが、央一に見えた。

「間に合えッ!」

央一は幅跳びの選手のように渡り廊下を飛んだ。

「きゃあっ!?」

そのまま音々子に向かって飛び込む。音々子を抱えた央一は壁に激突し、頭を強かに打ちつけた。

ゆらあ。

青白い男の両手は空を搔いたに終わった。

音々子は央一にすっぽり抱えられた格好からその男を仰ぎ見た。

「……首が、無い……!?」

その男は深い紺色のモーニングのようなスーツを着て、襟元は濃い臙脂に汚れていた。胸より下までドス紅く汚し、伸びた両腕は形状尺骨突起をちらと見せて手首以降はしつらえられた白いシャツ、その上に金のボタンでしめたスーツの袖がかかる。

首の無い不気味な男は前に突きだした両腕をまるで目で見て確認するように、無いかぶりを振った。そしてゆっくりとまたあたりを確認するように、首を回す。

「央一!! しっかりしなさいよっ!! 奴よ! 首が、無いの!!」

しかし央一はぐったりとのびている。

「もうッ! こんな時に限って!!!」

音々子は央一を揺さぶるが、目を開けない。

「起きてよッ! ちょっと、央一ッ!!!」

男は半身をひねり、振り向いた。
無い頭が音々子を見つけている。

「ひぃ……ッ」

(慌ててはダメ、動いちゃあダメ……!)

ぎゅっと央一のシャツを握って音々子は自分の心臓の音だけを聞いた。

男は音々子の方へ一歩、また一歩と力のない歩行で近づいてくる。

(あっちへ行って、お願い……)

音々子は男の頭部のないネクタイを睨んだ。

これは血だ。かわいた血がべっとりとスーツを染めていた。

(央一の役立たず! お願いだからあっちへ行って……!)

目をつむって念じる。

しばらくそうしていたが、……何も起きない。

音々子はそろりと瞼を上げた。

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