ボクらの鎮魂譚 - 31/66

2❀

まるで滑るように上体を揺らさずに歩いて行く男――

(…………?)

の姿は見えない。

「どこ、に?」

央一は音々子の視線の先にあの地縛霊男を見つけることが出来ず、首を傾げた。

央一の後ろはもう廊下が見える。この学校の教室は基本、廊下に面する窓は擦りガラスだ。廊下が見える、と言ったのは、廊下へ出る引き戸の透明な窓ガラスから見える、という意味だ。なので央一もそこを見た。

「どこって、通り過ぎたわよ! 馬鹿!!」
「エェッ、マジか!」

呆けてる長身の横を長い黒髪がすり抜ける。

「行くわよ! 追いかけんの!」
「お、おう!」

言われるがままにその長身もバッグを引っ掴んで教室を飛び出した。

しかし飛び出したまではいいものの、予想通りと言うべきか、驚いたことにと言うべきか、もしくは両方の思いを持って、

「いませんけどォッ!?」

あの彷徨える男は廊下にいなかった。

「ホントに見たの?」
「いたのよ! つべこべ抜かさず探しなさいよ」

音々子は何か確信を持ったような足取りで廊下を突っ切って行く。央一はまだ男の姿を自分の目で見ていないので、探すというより半信半疑に音々子にただただついて走った。

現在、央一と音々子がいる場所は第二校舎一階廊下。渡り廊下のある階であり、第一校舎への移動も可能、上履きのままでもよければ屋外へ出ることも可能、というロケーションだ。

それが何を示すかと言うと、今あの男の姿が見えないということは、外に出てしまった可能性もあるということ。この間の音々子の証言のように、屋内では見えた夢遊病者のように歩く男が、外でもある渡り廊下に出た瞬間その姿が見えなくなり、渡り廊下の先のまた屋内で再び出現する、というアレだ。先程の音々子の手帳にも記してあった。

《男は屋内のみに現れる、と前述したが、それは姿がこちらに見えるようになるだけであり、男はその間も移動中である。見失ったらば――》

(何をしでかすか分からんゼ……!)

次は一体どこに現れるのか。

まだこの校舎の中にいるのか。

狙いは誰(何)なのか。

とにもかくにも、走るしかない。走っていないと、音々子に置いて行かれる。

それ以前に、音々子が危険だ。一度(ひとたび)歩いてしまえば、どこにいるのか未だ把握し切れていない首絞め魔からターゲットにされてしまう恐れがある。

「ねこちゃん!」
「何よ」
「どこまで行くンだい?」
「アイツがいる所までよ」

そんなバカな。

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