空っぽの黒ゴマ牛乳をぽいと宙に放る。四角柱のパックはくるりくるりと一定の回転をしながら弧を描いて、それから地球の引力に吸い寄せられて真下へ下りてきた。
パンッ!
一瞬にしてパックは立体から平面にされる。真下の央一が勢いよく両手を打ち合わせたからだ。盛夏の煩わしい雌の蚊を潰すかのように躊躇なく。
「フッフフーン。さあて……」
そろそろ午後の授業開始の時刻になるだろう。
潰した三百五十ミリリットル紙パックと、完食済みの弁当箱の入った巾着をぶら下げ、いよっと上体を起こした。その背中は彼の軽薄そうな印象からすると思いの外広い。但し、猫背だ。
その猫背を更に縮こまらせて部屋の小窓からそろりそろりと離れる。外の通行人の誰かサンにうっかりでも見つかってしまっては阿僧祇央一という思春期真っ盛り高校一年生のこれからの楽シイ楽シイ三年間が台無しになってしまう。慎重に動かねばならない。
予鈴が鳴っている。この運動場用具室にはスピーカーが無いので外で鳴り響いているのを拾って聞く形になるがちゃんと聞こえてくる。
「おっ、今日のラストパンチラ! ステキ発見!」
予鈴を聞いて慌てているのだろう。走って行く女子生徒のノーガードパンチラを拝むことに成功。
成長期特有のふっくらとしたほどよい肉付きの太ももが、淡いピンクの下着から伸びている。大股に走る脚の動きにつれてちょっとだけ入りきれなかった尻の肉がパンツのゴムと腿の筋肉との間に挟まれてぷよんぷよんと余る。
「あ~いいわ……」
今日も神様に生きていることを感謝したい。自分がこうして生きていることと、彼女のような女神たちが元気よく健康的にスカートを穿いていることを感謝したい。
あっと言う間に走り去って行ってしまった尻肉の女子生徒だったが、央一としては今日のMVPを授与したい気分になっていた。Most Valuable Pant-chiraを差し上げたい。
「俺も急がないとな、四階まで登ンのかァ……」
本鈴まで五分はある。しかし央一のクラスである一年B組教室がある四階まで登るのは、間に合うとしてもやはり億劫に思う。それがこの運動場用具室の小さな難点だ。ついでに言うと、央一の苗字は『あそうぎ』なので出欠確認は最初に呼ばれる。
例の小窓から外に人がいないか窺う。耳もすませて遠くから近づいて来る足音が無いか確認する。
……ヨシ。三段だけあるコンクリート階段の上にある戸を開けた。蝶番の軋む音。ビークワイエット、プリーズ。
この部屋を出ただけでは、まだ地上ではない。運動場に面した用具室入り口だが、同じような階段がまた少しだけあり、それを上りきるとやっと砂っぽい運動場に上陸できる。
午後は体育の授業が必ずない。生徒思いの学校だ。央一はやはり人気のなくなっていた運動場を揚々と見回し、気持ち急ぎ足に用具室沿いを急いだ。
左に進めば一年生教室がひしめき合う第一校舎の昇降口がある。そこのロッカーで上履きに履き替えて階段を二段飛ばしにダッシュする、というのが最近の日課になっていた。我ながら健気に一途に一生懸命、自分の趣味を全うしていると思う。誰か褒めてくれないものか。
ところが、ロッカー前。
「……えェッ? ちょ、ちょっとォ!?」

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