ボクらの鎮魂譚 - 29/66

「その理由はこれまた定かじゃあないケド、でも多分そうだと思うんだナ」

央一の言い訳のような付け足しのような言葉を聞いて、何か言いかけるかのように口を開いた音々子だったが、結局何も言わずにいつものシンキングタイムに入ってしまった。

こうなってしまうと、彼女はドウシテナンデくらいでしか対等な会話のキャッチボールが出来なくなることをこの約三週間で央一は学んでいたので、彼女に聞くよりも手帳を読むことにした。再び目を落とす。

《男の特徴は夢遊病者のような歩き。スピードはのろい、か》

《格好は、おそらく仕立てたスーツ(←真新しいスーツではなかった気が? 生前着ていたものかも)》

《素晴らしい尺骨茎状突起の持ち主。屍であることが惜しい!》

この文章に少しニヤリとしてしまう。『!』とかつけちゃうところがカワユイ。こんな小難しい漢字の羅列をさらりと書いてるあたりがちょっと不思議ちゃんクサイけど。

《尺骨茎状突起から見れば、男はそこそこ筋肉質。だけどムキムキではない。外仕事より中仕事をしている人に多い手首の肉付き。骨は意外としっかりしている。故に育ちはそこまで悪くなく……》

この後は延々と音々子式尺骨茎状突起的人格論が繰り広げられている。これがどこまで通用するものなのか、央一には判断できない。飛ばす。次。

《顔や髪型、身長は分からない。覚えてない。(←ツーも見ていないらしい)》

「……ちょっとねこちゃん!『ツー』って誰よ?」

気になったので訊く。今度は少し間が空いてから、いつもの凛とした声が返って来た。

「誰って、アンタのことだけど? 他に誰か居て? 私とこの話題を共有している人間が」
「いや、そんなこったろうとは思ったけどよォ、何でツーなん? 何で2なん? 俺、央一ぞ? 1だぜ、ワンワーン」

つい突っ走ってツッコんでしまう。だって由来が分からない。

「ナンバーワンは、例の地縛霊の男よ。尺骨茎状突起が私の人生ナイスな一位。アンタは二位に甘んじているから、ツー。ナンバーツーのツー」
「エェーヤダー」

やはり何か気に喰わない。別に好きでこんな順位に居るわけでもないのに「甘んじている」とか言われた日にゃあムカッと来ちゃいマス。大体ただの趣味の中の趣味、独断と偏見なのだから。

「ダダこねたってしょうがないじゃあないの。気持ち悪い、その声音やめてよ」
「エェーヤダヤダー」
「おだまり、五月蝿い」

しまいにゃ怒られる。

「チョン切ってソレをアンタの口の中に突っ込むわよ」
「だからそれヤメテ怖い!」

音々子の視線はまるでレーザービーム。すべてを焼き切り払うかのような視線の先にある央一の大事なモノが竦み上がった。

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