(オイオイオイオイ、何を考え込むことがあるんだ! さっきみたいにはっきり「キショイ」と言っておくれよ。そっちの方がボク、ここでおもらししないで今日という日を終えることが出来るからーーーー!)
という祈りも届かないこの無情感溢れる沈黙は、そこまで長くは無かった。早々に音々子が口を開いたからだ。
「それが、趣味だと言う証拠は?」
央一がほっとしたのも束の間、戦慄した。
(コイツ……、マジメか……!?)
違う意味で汗が流れる。
「アンタの身長でしかスカートの中を覗けないなら、それは証明にならないわ。私はそれを確かめられないもの」
「……そう、ですネ」
(マジでマジメだった……)
しかしこれだけ偏見の目を持ってくれていないならば(今は覗き魔検挙が目的ではないので抑えているだけかもしれないが)、むしろ央一にとっては追い風だ。やはり音々子が相手で良かった。
「他にもボク独自のパンチラ鑑賞スポットがありまして、それは運動場用具室ナンですが」
「運動場用具室? あそこ勝手に入れるの?」
「入れマス。あこの部屋に入って、ちょうど地面の高さくらいにあるあの小窓から、十分覗けマス、ハイ」
「……」
音々子サン、審議中。
この暴露が、吉と出るのか凶と出るのか。
(ああああああ…………、母ちゃん……、こんな子供でゴメンナサイ…………! こんな情けない男でゴメンナサイ…………!)
あまりにもその静寂が、央一の心に痛すぎて、天に召します自分の母親に懺悔する始末だ。相当ブルっている。
「アンタはずっとそこに立っていたと、言ってたのを聞いた気がするんだけど、ということは、見ているわよね?」
「……と言いますと?」
「私のパンツ」
今日いちばんの処刑タイムが、ついにやって来た!
この美少女はその麗しく愛らしい、こんな爽やかな春にふさわしい桜色の唇で、 “お前は私のパンツを見たのか”と訊いて来たのだ。
(見たよ、見たけどォ~~~、コレ回避できないのォ~~~~~ッ!?)
「これなら私でも判断がつくわ。さあ、答えて。見たのか、それとも今喋ったことすべて嘘なのか」
音々子の真実を追い求めるその姿に、央一は脱帽を禁じ得なかった。
(おったまげた……クレイジーだぜ)
堤高日本一を誇る我が地元の観光地が一つであるあのダムから飛び降りる。そんな気持ちで、ようやく乾いた口を動かすことが出来た。
「見、ました」
「そう……」
声を発した瞬間、ズオォッとおぞましいまでの殺気が、今や哀れなボロ雑巾のようなメンタルの央一を直撃した。
「それで、どんな?」
(母ちゃん…………っ、俺に勇気をォ…………ッ!!)
「色は?」
「……黒です」
「柄は?」
「総レースでした」
「……」
「……」
この沈黙。現役ベテラン刑事でもこんな迫力は出せまい。ピクリとでも動いたら、あの深淵の黒からウルトラ怪獣もビックリな光線が照射されるだろう。
苦しい、この空気が苦しい。首を絞められているわけでもないのに、大いなる力によって呼吸することが許されない。さすがはスピリチュアルスポット。

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