(見た目はカワイイんだけどねー、こういう小難しい件の話し相手にゃ向いてないか)
とは思いつつも、結局彼女が次の言葉を紡ぎだすのを待ってしまっている自分がいる。
(まあカワイかろうが、見た目的なものは今必要じゃあないし。なんたって俺は世の女性全員のパンチラの味方だからネ)
黙り込んだままの音々子の前髪を見つめて、そろそろ時間切れ、と央一が口を開けようと思った時、深淵の黒い瞳が上がった。
「分かったわ、アンタの言い分を信じる」
予想外にも、決然とした答えが返ってきた。
「……何でそんなマヌケな顔してんのよ。逆にその反応に疑いを持つわよ」
そう言われて、央一は目と口が思わず開きっぱなしになっていたのに気付き、塞いだ。
央一の予想としては、てっきり、信じてもらえないままずるずるぐちぐち延々と音々子にいちゃもんをつけられるものと考えていたのだ。
「あの、ホント?」
「ええ。但し、これだけは答えてもらうわ。これが答えられて、誠意ある、真実味のある返答だったら、この件に関して私はアンタを全面的に信じる」
なんのこっちゃ。
どんな質問が飛んでくるのだろうか。
「あ、ああ。……ありがとう」
まあ、どんな質問が来ようが、それで彼女が央一を怪しい人間で“敵”であると思ってくれないなら、嬉しい。こんな分からず屋ガンコちゃんの音々子が精一杯譲歩しようとしている。その彼女の先出しの“誠意”に応えよう。だから央一は、その問いに嘘はつかない、と自分に宣言した。
(別に、嘘つく必要も無いしな)
「いいぜェ、何が聞きたい?」
央一は音々子に向かい合って立った。渡り廊下は風すら我が物顔で通る。
「私が問い質(ただ)したいのは、阿僧祇央一という人間の信憑性よ。ここの生徒だということは分かった。それよりもアンタの中身。アンタは、事件に立ち会った私にとっての、正義になり得るのか――」
何だかエラく込み入ったようなセリフを並べちゃってくれているが、要するに、やはり央一が音々子にとって味方かどうか、ということが知りたいらしい。
知ったとしても、それが有用であるかどうかは音々子が判断するところであるというのを忘れてはならない。いくら本当のことを央一が腹の底から叫んだとしても、だ。
「で?」
「ズバリ訊くわ。アンタは何故ここに居たの? 誰かを待って、この渡り廊下の下に立っていたの? 突っ立っていた動機を教えてちょうだい」
「……」
やはりそこか――と、央一はまたしても口を噤(つぐ)むことになった。
そうですよね、そこが解決すればスッと喉鼻通ってスッキリしますよね、と頷く。頷きはする、が。
(………………もういっか)
よくよく考えたら、これを訊いてくれたのが音々子で良かったかもしれない。
音々子のガーベラのようなまつげが、瞬きもせずに返答を待っている。央一は短いシンキングタイムで答えを出した。
「俺が今日そこに立っていたのは、初犯です」
「……は?」
――出だしを間違えたかもしれない。
音々子はイラッとした感情を隠しもせず、すべてを一音に真空パックして目の前の男に投げつけた。
めちゃめちゃコワイ。エラソー。だやい。
「……スイマセン、テイクツーもらえますかね?」
「……許可するわ。続けて」
許可をもらった。

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