ボクらの鎮魂譚 - 20/66

「風が吹いて来たのは!?」
「そのすぐ後よ」
「トロフィーに男の姿は映ってた!?」
「映り込んではいなかったと思うわ。……トロフィーって円形なのに、映らないのはおかしいわね。私の背後、百二十度くらいは見えそうなものなのに」
「ソレって、おかしくなァーーーいッ!?」
「本当、おかしいわ!!」

央一の予想は的中した。

こんな面妖珍妙なるアイデアが当たるよりかは、近くの競馬場で万馬券でも当てたかった!

「ねこちゃん!」
「その呼び方やめてくれないかしら」
「ゴメンナサイ! この事件はただの殺人未遂事件じゃあねェよッ!」

造形の美しい少女の顔が怪訝そうに歪められる。

「どういうこと?」
「これは、心霊事件だッ!」

そう、心霊事件だ。

それが、この事件の最初の謎の正体だ。

一瞬広がった瞳孔がきらりと光った。しかしまた音々子の表情は顰め面に戻った。

「……あの男が、幽霊、だって言いたいの?」
「ああ。だってよォ、消えるんだぜ? ねこちゃんが見た……いや、見えなかった渡り廊下での犯人! そして犯行後、階段に向かったあの男を、俺も見ることが出来なかった。足音さえ俺は聞いていない!」
「足音……は、……確かに、私も聞いていない気がする」

衝撃を受けた二人の脳と心は、運動部の掛け声に身体ごと揺すぶられている。足元が瓦解して、果てしなく落下していくような感覚。しかし不思議なことに自分の裏側はふつふつとした何かがあるのも感じた。足裏の感覚を取り戻し、お粗末な渡り廊下を踏み直す。

(おったまげたぜ。幽霊なんかいるんだな、まだ分かんないことばかりだけどよォ……)

「でもっ私は階段の角を曲がったのを見ているのよ? そこにいたアンタが、何ですれ違わないわけがあるのよ!?」
「っ、だァーーーーーーッッ!! まだそれ言うーーーッ!?」

音々子はまだ納得がいかないところがあるようだ。

「幽霊はッ、自分でッ、自由にッ、姿を消すことが出来ンのッ!! それでひとつ呑み込んでくださいよ、俺だってその道の専門家じゃあねェんだ」
「そうは言っても……」

まっすぐ過ぎてちょいとばかし扱いづらい。

央一は小さく息を吐いた。音々子の眉根はまだ寄ったままなのだ。

「……あの犯人の男が、怪奇現象の一種のものだって言うのは、……それについては私も思い当たる節はあるから、その考えには賛同するわ。でも……」

音々子は言い淀んでいる。たった二人分の証言を元につじつま合わせてみたらこうなっただけなのだ。それを、今この場で事実として認めろと言われて、YESと言う人間の神経もそれはそれでおかしいかもしれない。それでも音々子は、こうして時間をかけながらも考えて、自分の意見をまとめて見せてくれようとしている。

たまにちらちらと央一の顔を見たり、振り返って職員室前を覗き込んでみたり、遠くをじっと見てみたり。脳ミソがパンク状態なのが一目瞭然でちょっと面白い。その落ち着きのない仕種は文鳥とかの小鳥を彷彿とさせる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA