ボクらの鎮魂譚 - 19/66

探偵風ポーズ。央一の予想通り、音々子は口元に手を当てて脳内の記憶を探り始めた。こういった特徴だったら、見ていなければ分からないディテールのことよりは印象寄りのお話になる。これだったら答えられるのではないかと考えたのだ。

「うちの学校の先生みたいな、ちゃかちゃかした歩き方ではなかったかもしれないわ。ゆっくりと、……何というか、夢遊病者みたいな感じかしら。そういう症状の人を私は実際に目にしたことはないけど。手も、少し離れた所からでもずっと目で尺骨茎状突起を追えていたくらいだから、あまり振っていなかったかもしれないわね」
「夢遊病……」

ちょっと雲行きが怪しくなってきた。

これは本格的に大人に任せた方がいいような気がしてくる。お遊びと好奇心でやってられることではない事件なのではないか。

「あ、それと」
「ン? 何か思い出した?」

珍しく音々子から話を繋げてきた。また重要なことが聞けるか。

「これが、いちばん私分からなくて」
「うんうん」
「渡り廊下を通るのに、そこの扉から一旦外へ出るでしょう?」
「ああ、そうネ。ねこちゃん、奴さんが廊下渡る前から見てたんだもんな」

(……エ、いやちょっと待てよ?)

「アイツ、渡り廊下へ踏み出した途端、『消えた』わ」

ぞくぞく――っと、シャツの中に氷を突っ込まれた気分になる。

央一は大事なことを思い出した。そうなのだ、この執拗なフェチ体質の音々子がじっと、尺骨茎状突起を目で追っている。それなのに、彼女は――、

「じゃあ、ねこちゃんが渡り廊下で捜してたのって――!?」
「姿が見えなくなって、見失った彼を捜していたのよ。あの廊下から下へ落っこちたんじゃないかって思って本当に驚いたわ」
「早く言えよッッ!!」

こンのおとぼけがァッッ!! と怒鳴り散らして、頭を抱えて、転がりまわって、手足をじたじたばたばたさせたいところだが、それよりも強く、央一の思考速度が加速する。

(そうしたら、そうしたら、じゃあ、じゃあッ――)

「もしッ! もし覚えてたらでいいんだけど、もう部活に行っちゃけど、あの子! あの子が渡り廊下を行くのを奴(やっこ)さんが現れる前に、ねこちゃん見たッ!?」
「あの子というのはあの子よね? 染めたような色の長い髪の、被害者になってしまった」
「そうそうそうそォーゥッ!!」

出た! 探偵風ポーズ、パート2(ツー)!

再び音々子は黙考を始めた。自分の頭と、胸と、対話を始めた。

(もしかしたらだけどもしかしたらだけど――)

さっきから央一の全身は鳥肌が止まらない。ついでに寒気も止まらない。おまけに動悸も止まらない。
音々子の返答次第では、この事件は迷宮入りになる。その可能性がある事件の全容を、央一は今、想像している。思いついてしまった。そしてそれが離れない。

「そういえば」
「そういえばッ?」
「掲示板を見ている時に、職員室のドアが一度開いたわ。それで女の子の声で『失礼しました』というのを聞いた。それがきっとその子ね」
「その子の姿は? ねこちゃん見た!?」
「よくよく思い出してみれば見ていたわね。直接ではないけど、ガラスケースやトロフィーに映り込んでいる彼女を見ていたのを思い出したわ」

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