ボクらの鎮魂譚 - 18/66

「……話は戻すけどよゥ、あの男を初めて見たのはどこの辺? 校舎ン中?」
「校舎の中よ。私はクラスのある第一校舎の三階から下りてきたの。二階に下りて、職員室の前の掲示板と賞状とか、眺めていた」
「掲示板って、部活の優勝トロフィーとか置いてるガラス棚の、その辺? 賞状も額で飾ってあるよな、盾とかもあったっけか」

央一はその場から第一校舎を覗(のぞ)いた。今も渡り廊下への扉は開け放たれていて、長い長い廊下の向うにまた、突き当たりの非常用ドアが見えた。そこへ着く前に、ちょうど真ん中から手前くらいの位置に職員室があり、職員室の前に、生徒の活躍をさまざまな分野に渡って褒め称えるコーナー、みたいなものがある。

「そう、そこで合ってるわ。そうしたら、どこかの窓が開いていたのか知らないけど、いきなり風が舞い込んできて、ポスターが一枚飛んで行ったの」

風――。央一は、その風に心当たりがあった。

「……それで?」
「それで、私はそれを拾うために追い掛けようと思った。掲示板から振り返って、渡り廊下の方を向いたのよ。そこで彼を見つけた」
「フフフンー……」
「だから私はアイツが、どこから入り込んで来たのか、何者なのか、顔も、分からないのよ」
「で、『私の好みのタイプどストライクーゥッズキュンッ!!!』ってんで、ついてったの?」
「まあ、そういうことになるのかしら」
「なァるほどネ」

音々子はあの男が怪しい人間だとこれっぽっちも思わずにストーキングしていたようだ。さっき出会ったばかりの女の子ではあるが、言動の端々(はしばし)から見られるちょいと盲目的なところから、この証言に嘘は無いだろう。央一はそう思った。

「奴さんの背格好とか、髪型とか、知りたいとこなんだけどォ。靴は履いてた? 上履き? 外履き? それとも裸足?」

更に重ねられる央一の質問に、閉口したような表情の音々子。面倒くさそうに黒髪を耳にかける。

(そォーんな顔すンなよォ)

面倒くさい質問を続けてしまうのは自分のせいではない。央一も一つ、息を吐いた。

「……次に見かけたりしたら、今度こそ何か起きる前にとっ捕まえたい。教えてくれ」

というか、もしかしたら世にも有名な変質者かもしれない、という線でも外見の情報は必要だ。この娘(音々子)だけでは危ない――というか、いろいろとアレだから、央一の方でも情報を預かっておきたい。そういうところがある。

「だから、まったく覚えてないのよ」
「いやいやいや、よッく思い出してチョーダイよ。何かしら、あるでショ!?」

「そう言われてもね、本当に覚えてないのよ。私、自分の見たいものしか見えてないし、覚えてないことが多い、って言われたことあるんだけど」

(うん、それを言ったヤツは正しい!)

今となっては致命的な欠点だが、央一は何だか大いに納得してしまった。そう彼女に伝えた勇気あるヤツは誰なのか知らないが、心からエライッと賛辞を贈りたい。

「そォかー……。歩き方とかは――覚えてないよね?」

もうちょっとだけ食い下がってみる。

「歩き方?」
「えー、例えばゆっくり歩くとか、速いとか。手の振り、とか」
「そうね……」

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