ボクらの鎮魂譚 - 14/66

反応が無い――。無いのは音々子のことを指して言っているのだが、こうも肝が据(す)わりきっちゃってる女の子ってどうかと思ってしまう。とても冷めた眼で、央一がこれから何をしようとしているのかを、自分はしゃがみもせずに上から観察している。

「お客サン終点ですよォ~、起きて下さァ~い?」

央一は呼び掛けを続ける。意識を取り戻してきたのか、女子生徒のまぶたがひくっと動いたのが見えた。

「首の痣(あざ)を見てろ」

音々子に念押しの忠告を掛けた後、仕上げとばかりに女子生徒の耳へフッと息を吹きかけた。

「きゃぁッ」
「あ、お目覚めですかァー?」

女子生徒は見事こちら側に還って来た。反応も上々だ。

「え、あれ……わたし……?」
「いやァびっくりしちゃったよォ。アナタこんなところで寝てるンだもんサ」
「え!?」

いい反応、実にいい反応。

この女子生徒も首を絞められて気を失っていた、という事実を知らない、という事実を、これにて音々子に証明することが出来た。

「どっか痛いところとかない? 気分が悪いとか」
「そう、ね……大丈夫よ。ちょっとクラっとするけど一人で歩けないほどじゃあないわ」

「あらそォ? 保健室まで送りましょうか?」
「ううん。それよりこれからわたし行くとこあるから、部活あるのよ」

そう言って茶髪の女子生徒は恥ずかしそうに央一から離れた。彼女の言う通りちゃんと自分だけの力で立ち上がり、軽くお尻の埃(ほこり)も払う。

「それじゃあ、心配かけたわ。アリガト」

そそくさと階段の方へ駆けて行ってしまった。

元気そうでなによりだが、これでめでたしめでたしとはいかない。これからが本題なのだ。

「……行かせて良かったの?」

音々子の声はそれでも静かだった。

「なァんも覚えちゃいないんだから居たってしょうがあんめェよ。それよか、見えた?」
「ええ」

だが先ほどとは違う、

「見えたわ」

重心の落ちた、強い返事が聞こえた。

「信じられないけど、アンタも見たんだもの。信じるしかないわね」
「ッたく、ほかに言い方あるでしょ~よォ~?」

ここまでお堅い態度を取られてしまうといっそ清々しい。これが素の地蔵ヶ谷音々子であるようだ。

「どうしてあの痣は消えるのかしら? 普通なら有り得ないわね」
「まァね、俺にもよう分からん。……でもこれで分かったことがある」

本当にまさかまさか、だ。まさかこの奇妙奇天烈な事件を共有してくれる人間が現れるとは夢にも思わなかった。むしろ、その事件の方を夢か何かだと思い込んで記憶の彼方(かなた)へ消し去ろうとしていたところだった。

「君がココに居てくれてヨカッタぜェーーーッッ!! この事件はおかしいッッ!!」
「その通りだわ、これはおかしい!!」

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