「アンタ、アイツとグルなわけ?」
「なッ……!?」
先に言われた!
「な、んで、そう思う、マスか?」
先手を取られたことでちょっと心臓にキてしまった。みっともなくセリフが揺れた。
「だっておかしいわ。この子がアイツに首を絞められて、倒れて、その後ろで見ていた私の存在に気付いてアイツは廊下を階段の方へ走って逃げた。あの角を曲がってアイツの姿が見えなくなったちょうどのタイミングでアンタがそこから出てきた。それで第一声が『大丈夫か』……。ここで何が起きていたのか知っていたということでしょう? たまたま通りかかったわけではなく、この倒れてる子が、ここで倒れてることを知っていて、目的を持って来た。そうでしょう、違う?」
黙って聞いていればしゃあしゃあと、まるで犯人かその片棒を担ぐ共犯者と断定しているかのような物言い。ほんのちょっと、ピキッ、と来た。
しかし面倒なことになってきた、央一は頭の隅で思った。こんな問答をしている間に犯人の男がこの校舎から脱出を図るだろう。それかもしかしたら、もう近くにはいないかもしれない。だとしても、これ以上の面倒はそれこそ面倒クサイ。この早とちりちゃんに説明を施さなければなるまい。
「ハイハイ、君の言いたいことはよォ~ッく分かりましたよ。ゴメンナサイネー、驚かせて」
央一は「こうさ~ん」のポーズを取った。別に本当に降参しているわけではない。一応ポーズとして「怪しい者じゃあないからネ」のつもりで両手を上げた。
「結論から言いますと、俺はグルじゃあありまセン! 何かつかまされてるとかもございまセン! ホラ見てよ」
「……?」
コレコレ、と央一の右手が足元を指す。黒髪の娘は素直にそれの示す方へ視線を落とした。
「靴、履きかえる暇無かったのネ。土足のままここまで来ちゃったのよ。ここの窓の下から怪しい男が近づいてンのを見てこの子が何かされるんじゃあないかって、そう思ったわけよ。いっそいで走って来た、そこの階段二段飛ばしで。そしたら、もう……」
「……」
事実をありのまま話したのだが、黒髪娘は黙ったままだった。目の前の男の泥をこぼしたスニーカーを、だんまり決めてじっと見つめている。
「それに、あの逃げた犯人は大人だったでショ? 俺こんなナリでもまだ一年生だかンね。そんなおっかない知り合いいまセンから」
はいヨ、と次は学ラン胸ポッケから生徒手帳を出して見せた。央一の手を見ると黒髪の女子生徒は素直に受け取り、しっかりと確かめるようにページを捲った。
「俺は一年B組出席番号一番、阿僧祇央一。正真正銘ついこないだ入学してきたホヤホヤ十五歳! 留年とかじゃあないからネ。生年月日、合ってるざんショ?」
「……」
口元に手を当てて、さながら探偵のごとく注意深く生徒証のページを見ている。
有薗望港学園の生徒手帳は全生徒共通のページ(学校規則やスケジュール、校歌などの内容)の他に、生徒証ページと呼ばれている、持ち主の情報を記すページがある。そこに生徒の個人情報やケガや急病の場合の緊急連絡先などを明示し、そしてわざわざ年度の初めに全生徒撮らされる証明写真を貼っ付ける。落として紛失なんて日にゃあ、それこそ緊急事態になっちゃう仕様になっている。
そこまでのブツをこんなご時世にこの状況で初対面の人間に見せるのだから、さすがに察してくれるだろう。央一は反応を待った。

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