■シェアハウス梁山泊・八重の部屋(夜)
その晩。
私は頭を強打したために、食堂に降りての食事ができなかった。
まだ立てない自分の弱さを悔やみながら、ベッドに寝ていた。
日比野八重「でもお腹空いたなあ」
日比野八重(食欲はあるんだから、人間ってゲンキンな生き物だよね)
そこへ、コンコンとノックが聞こえてきた。
日比野八重「? どうぞ」
神山かぐや「八重さん、お加減いかがかしら?」
日比野八重「かぐやさん!」
訪ねてきたのは大家のかぐやさんだった。
日比野八重「かぐやさん、すみません……。お庭が大変なことに……」
神山かぐや「いいのよ八重さん。よく守ってくれたわ」
神山かぐや「ごめんなさいね、来たばかりなのに。私、ふがいなくて」
日比野八重「いえいえ! 滅相もないです!」
日比野八重「かぐやさんが一人で全部退治してくれったって聞いて」
神山かぐや「あら、ふふふ」
神山かぐや「でもね、八重さん。雪矢くんも手伝ってくれたのよ」
日比野八重「雪矢も?」
神山かぐや「あの子はシャイだけど、とても心根の優しい子なの。八重さんを守りながら必死にやってくれたわ」
日比野八重「そうだったんですか……」
神山かぐや「昨日のお夕飯だって、八重さんが来るって知ってたらもっとちゃんと下ごしらえもしたのにって、キッチンで言ってたのよ。実はお料理も好きなんですって」
日比野八重「……」
私はなんだか情けない気持ちになってうつむいた。
神山かぐや「ちょっと無口すぎるけれどね」
神山かぐや「そうそう、それから」
日比野八重「?」
神山かぐや「雪矢くん、このシェアハウスを出ていくって」
日比野八重「えっ!?」
私は耳を疑った。
神山かぐや「だから決闘も無しね。安心して養生してちょうだい」
そこへ、突然部屋のドアが開け放たれた。
日比野八重「うわあっ?」
見ると、巳雪矢がおぼんを持って立っていた。
日比野八重「の、ノックくらいして下さい!」
巳雪矢「夕飯、持ってきた」
神山かぐや「そう。じゃあ八重さん、食べられるだけ食べて、よく寝てくださいね」
日比野八重「ありがとうございます、かぐやさん」
神山かぐや「うふふ、それじゃあね」
かぐやさんは去り際に意味ありげなピースをして去っていった。
日比野八重「……」
巳雪矢「……食うか?」
私が黙っていると、巳雪矢は今までに聞いたことのないような優しい声で言った。
日比野八重「ありがとうございます」
巳雪矢「おう。じゃあ」
おぼんを私に渡すと、そくドアに向かった。
日比野八重(きっとこれからハウスを出る準備をするんだ……)
そう思うと、私はその後ろ姿に声をかけていた。
日比野八重「待って!」
巳雪矢「……?」
日比野八重「本当に出ていくんですか?」
巳雪矢「ああ、そのことか。俺が出ていく」
日比野八重「そんな、その必要はありません!」
巳雪矢「もともとここでも浮いてたし、ちょうどいい機会かなって思ってたんだ」
日比野八重「あなたは梁山泊に必要な人間です! 雪矢!」
巳雪矢「!」
私がありったけの思いを詰めて叫ぶと、巳雪矢は驚いた顔をした。
日比野八重「私、あなたのこと、誤解してたかもしれません……。もっと冷酷な人だと思ってました」
日比野八重「でも、あなたはその反面とても人にやさしい。誰よりも、私はあなたを尊敬します」
巳雪矢「八重……」
私はおぼんをサイドテーブルに置いて、ベッドから立ち上がろうとした。
日比野八重「わっ」
巳雪矢「あ、危ない!」
よろけた私を、巳雪矢が支えた。
日比野八重「あはは……ほら、やっぱりあなたは優しい人だ」
巳雪矢「……」
巳雪矢そっぽをは向いていたが耳まで真っ赤になっていた。
日比野八重「幸い、全部の荷ほどきが終わってないですし、私が出ていきますよ」
日比野八重「巳雪矢、あなたの方がこの梁山泊にふさわしい」
巳雪矢「お前はそれでいいのか?」
日比野八重「え?」
巳雪矢「お前は強くなりたくてここに来たんだろう?」
巳雪矢「俺はお前がしたいようにしたらいいと思う」
日比野八重「でも……」
巳雪矢「俺は、……ずっと八重、お前にあこがれていたんだ」
日比野八重「え?」
巳雪矢「高校のとき、ひとめ見た時からコイツの目は違う。コイツの拳は殴るだけの拳じゃあないんだって気が付いて……」
巳雪矢「気が付いたらお前を追ってた。俺なりの喧嘩道だけど、お前と並べるような男になるために」
日比野八重「……」
巳雪矢「本当は、お前とここで暮らしていたい。競い合って、強くなりたい」
巳雪矢「でも大家のルールは絶対だろ?」
日比野八重「あ」
私はかぐやさんが去り際に残したピースを思い出した。
日比野八重「いいえ、雪矢! まだ間に合いますよ!」
巳雪矢「は?」

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