第3話
■シェアハウス梁山泊・共有リビング(昼)
昼下がり。
ほかの住人はそれぞれ自分の用事や仕事で外出している。
今夜が決戦の私はおとなしくリビングを掃除をしていた。
日比野八重(でもただおとなしく掃除してるわけじゃあない!)
日比野八重(すり足で掃除機をかけることで、腹筋背筋、足腰の強化をはかっている!)
私は万全を期すため、朝も日課の走り込みを欠かさなかった。
日比野八重「呼吸法もやっておこうかなあ」
■シェアハウス梁山泊・門前(昼)
そこへ――
???1「ここが奴のいる場所か……」
???2「昨日は手酷くやられたが、今日は仲間を連れてきてやったぜ」
???2「お前ら、行くぞ!!」
仲間大勢「おおーうっ!!!!」
■シェアハウス梁山泊・庭(昼)
ドン、ドン!
日比野八重「な、なんの音っ?」
ドカーン!
???2「なんだあ? このちゃちい木の看板は? 表札か?」
私が庭の先にある門を見たときは、すでに男たちがなだれ込んでいたところだった。
???2「シェアハウス……なんて読むんだこれ?」
日比野八重「りょうざんぱくです! 梁山泊!」
日比野八重「門を破壊するなんて、何を考えているんですかあなたたち!?」
???1「この女、昨日の白髪頭の仲間じゃあねえか!」
???2「お、一緒くたに見つけられるなんてラッキーだな」
チンピラはにたにたと笑いあっている。
日比野八重「白髪頭……! あなたたちはまさか、昨日のひったくり犯!?」
チンピラ2「そうだよ、世話になったな昨日はよお」
日比野八重「ふんっ!」
チンピラ2「ぐげえっ」
私が手に持っていたワイヤレス掃除機を振り回すと、男は腹を抑えて倒れこんだ。
日比野八重「これは壊した門の分です、まだ足りませんけども」
チンピラ1「怯むな! 数では勝ってるんだ、女一人ぐらい平気だ。やっちまえ!!」
仲間大勢「おおっ!」
どどっと庭中がチンピラだらけになっていく。
私は冷静にあたりを見回した。
チンピラ1「白髪頭を引きずり出せ!」
日比野八重「……!」
すると、ハウスの中にまで侵入しようとしている輩までいた。
日比野八重「巳……白髪の男は今留守にしてます! 中を探しても無駄ですよ!」
日比野八重(かぐやさんには申し訳ないけど、この庭だけでこの人たちを食い止めなくては!)
チンピラ1「いない、だと?」
日比野八重「ええ、もちろん。あなた方とは違ってしっかり仕事をしておりますから」
チンピラ1「はあ? なんだお前ら夫婦だったか」
日比野八重「ち、ちがいます!」
私は顔を真っ赤にして否定し、力任せに掃除機を振り回した。
チンピラ1「あっぶねえな、この女!」
チンピラ1「誰もいねえってんなら、まずお前からつぶしていくことにしよう……」
日比野八重(よし、計画通り!)
チンピラ1「だがついでだ!」
チンピラ1「中も見ておけ。誰かまだいるかもしれねえ」
日比野八重「そんな……っ!」
チンピラ1「やれっ!」
日比野八重(くっ……、そう簡単には思い通りに動いてくれなかったか)
私は庭中を走り回り、手当たり次第に男たちをかぐやさんの整えた芝生に沈めていった。
とにかく数を減らすためにしばらくそうしていたが、とうとうハウスに侵入を許してしまった。
チンピラ1「二階もくまなく回れ! 物はまだ盗るなよ!」
日比野八重「盗む!? あ、あなたたち……! 人として恥ずかしくないのですか!!」
チンピラ1「なんだ、人の趣味にケチつけんなよなあ」
日比野八重「趣味ですって!?」
日比野八重(信じられない! こんな人たちに、あこがれの梁山泊の看板を叩き落されただなんて……)
日比野八重(許すまじ!!!)
チンピラ1「お? なんだその目は? やんのか?」
日比野八重「あなた方の所業、性根!! 私の美学が許しません!!」
日比野八重「必ず、一人残らず蹴散らします! 覚悟なさい!!」
チンピラ1「なにを言って……ぐおぉっ!」
私が表明をしていると、ひったくり犯は前のめりに倒れた。
日比野八重「な、あなたは……!?」
巳雪矢「なあに、ちんたら口上なんかやってんだ。ハウスがアリの巣になってんじゃあねえか」
日比野八重「巳雪矢!!」
チンピラの男の脳天に空手チョップを入れたのは、巳雪矢だった。
スーツ姿でかばんも持っている。
日比野八重「仕事は!?」
巳雪矢「そんな場合じゃあないだろう!」
巳雪矢「お前はハウスを守れ、俺は門から逃がさないようにする」
日比野八重「わ、わかりました!」
巳雪矢はネクタイを片手でゆるめ、もう片方の手は骨を鳴らした。
日比野八重「!」
日比野八重(なんだろう……かっこよく見えた……)
巳雪矢「ぼさっとすんな!」
日比野八重「し、してませんっ!」
ちょっと巳雪矢の横顔に見惚れてしまった。
そんな自分のほっぺを両手でたたいて気合を入れなおす。
仲間1「出てきたぞ! コイツだ! やっちまええっ!!!」
仲間大勢「オラアアアアっ!!!」
チンピラの男たちは一斉に巳雪矢の方へ向かっていった。
巳雪矢は波のように押し寄せる敵に怯んだ様子も見せず、殴り倒し、蹴り上げ、次々とちぎっては投げた。
巳雪矢「まだまだァっ、かかってこい!」
私はハウスに入っていったチンピラの男どもを、関節をきわめて身動きできなくなったところで外へ放り出した。
こちらが対応する数は減ってきたが、巳雪矢が相手をする数はまだまだ減らない。
日比野八重(ここは助太刀をしなければ……)
日比野八重「雪矢、助太刀を!」
巳雪矢「バカ! 危ない!」
日比野八重「え?」
私の頭上にバットの影が落ちた。
ガツンッ!
次の瞬間、視界が定まらなくなり、私は倒れてしまった。
仲間1「やった! これで残りは一人だ!」
日比野八重「……ゆき、や……」
巳雪矢「この……ヤロオオオオオオオオオオッ!!!!!」
私はかすむ視界で、巳雪矢がこちらに猛然と走ってくる姿を見た。
日比野八重(あ、危ない! ……殴られても立ち上がって……そんなに、私のことなんか、いいのに)
日比野八重(私、あなたのこと誤解してたかも……ごめんなさい、ごめんなさい……!)
身体に力を入れようとしても、頭の中が回っているように感じて、うまく立てない。
巳雪矢「大丈夫か! 八重!?」
日比野八重「ドジって……しまいました」
日比野八重(こんなに取り乱して……、私の、ために……)
巳雪矢「くっ、てめえら絶対生きて帰さねえぞォッ!!!!」
日比野八重「! ……今、わかった……」
日比野八重(誰かのために自分が傷つこうが修羅になれる)
日比野八重(それが巳雪矢の喧嘩道……!!)
そこへ元気でかわいらしい女性の声が響いた。
神山かぐや「あら、私の城で運動会なんてやっていたかしら?」
巳雪矢「その天狗のお面は!」
日比野八重「かぐや、さん……!」
――それから私の記憶は途絶えた。
あとから聞いた話だと、大家のかぐやさんが男たちを誰一人として残さず一掃してくれたらしい。
さすが梁山泊の大家さんだ、と思ったと同時に、怒らせてはいけない人だと思った。

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