第2話
■空き地(昼)
巳雪矢「……」
私は空手を究道するためにあのシェアハウスに入った。
そして巳雪矢に再会したのはなにかしらの運命だと思っている。
天が白か黒か、この男がどちらなのか定めよ、と宣ってのことなのだ。
巳雪矢はこちらに居をただし、
巳雪矢「……しらけた」
日比野八重「ええ……」
私が構えた瞬間には、もう殺気は取り払われていた。
巳雪矢「帰る」
日比野八重「あ、じゃあ荷物持って下さい」
巳雪矢「……」
日比野八重(ええっ、睨まれた!)
苦虫をかみつぶしたような顔をされた。
巳雪矢「……」
日比野八重「あ!」
そして無言のまま、ぷいと踵を返した。
日比野八重(……この男の、こういうところが嫌い……!)
重い荷物を背負った背中をぷるぷる震わせて、受け入れられない気持ちを新たにした私だった。
■シェアハウス梁山泊・玄関(夕)
日比野八重「ただいま帰りました-!」
私がシェアハウス梁山泊に戻った頃には、日が暮れかかっていた。
神山かぐや「お帰りなさい、八重さん。おつかいありがとう」
日比野八重「いえいえ、とんでもない」
神山かぐや「タイミングの悪いことに、雪矢くんさっき帰ってきたのよ。まったくもう!」
日比野八重(ちゃんと先に帰ってたんだ……)
神山かぐや「そうしたら、八重さんが警察にご厄介になってるって雪矢くんが!」
日比野八重「ご厄介!? ……というと、語弊がありますが」
日比野八重「ええと、落とし物を警察に届けに行っていたというか」
そこへ星の海関こと双葉さんが出迎えに来てくれた。
星双葉「おう、お帰りなさい。買い物に行ってきたんですね」
星双葉「ごっつぁんです、荷物持ちますよ」
日比野八重「あ、ありが……えと、ごっつぁんです」
星双葉「ははは、いやいや。お疲れ様で」
日比野八重(双葉さんは優しいなあ。巳雪矢は持ってくれなかったのに)
日比野八重(やはり武道を究めるもの、心も強く優しくなくちゃあ!)
神山かぐや「雪矢くんはちゃんとひっとらえてキッチンに立たせてるから」
神山かぐや「八重さんは夕飯までゆっくりしてらっしゃいな」
日比野八重「はい! ありがとうございます」
私は双葉さんに荷物を明け渡して、着替えに二階へ上った。
■シェアハウス梁山泊・八重の部屋(夕)
荷ほどきもだいたい終え、部屋着に着替えようとしたとき。
私はここに来てやっと思い至った。
日比野八重「あ、そういえばあのひったくり犯!」
日比野八重(警察に引き渡さずに来ちゃった……)
日比野八重(でも、そういえばいつのまにかいなくなってたな。どこに行ったんだろう……?)
などと考えていると、突然ドアがノックもなしに開いた。
巳雪矢「おい、飯」
日比野八重「ひゃあっ!」
巳雪矢「うわあっ!」
着替え途中の私の姿を見た巳雪矢がドアの横で固まっている。
日比野八重「見ないでくださいっ! 出てけ!」
巳雪矢「お、おう!」
ドアは音を立てて、すぐさま閉められた。
日比野八重(まったくもって……、)
日比野八重(巳雪矢!!! 許すまじ!!!)
■シェアハウス梁山泊・食堂(夜)
その日の夕食は豪勢だった。
大家のかぐやさんと巳雪矢の二人がかりで作ったそうだ。お皿がテーブルに所狭しと乗っていた。肉料理、カルパッチョ、鮮やかなサラダに数種類のスープ。パスタもあるけれど白米も一人に一杯よそってある。
神山かぐや「八重さんがいらした記念の日よ。いっぱい食べてね!」
烏丸悠斗「ほう、うまそうですなあ」
烏丸悠斗「八重さん! これから梁山泊の一員としてよろしくたのみますぞ!」
星双葉「うん、共に強くなろう」
加賀城マリ「楽しくなりそうだね!」
日比野八重「みなさん……!」
日比野八重「お世話になります!」
巳雪矢「……」
しかし巳雪矢だけはじとっとした目で私を見ているだけだった。
神山かぐや「まあ、雪矢くん照れてるのね。気にしないでいいわよ八重さん」
神山かぐや「いつもこうシャイなのよ。おほほほほ」
巳雪矢「だ、誰がシャイだ!」
食事はとにかく烏丸さんが大盛で食べつくし、双葉さんも現役のころほどではないが食べる。
日比野八重(ここの家賃本当に五万で足りてるのかなあ……)
私が心配するようなエンゲル係数であった。
話も盛り上がり、だんだんと打ち解けていっている間。マリさんが煎茶を持ってきてくれた。
加賀城マリ「そういえばユキヤンと八重ちゃんは知り合いなの?」
日比野八重「ありがとうございます」
日比野八重「そうといえばそうなんですが、なんというか腐れ縁でして」
巳雪矢「お前が勝手に突っかかってくるだけだろ」
日比野八重「なっ、そんなことしてません!」
巳雪矢「今日だってお前からいちゃもんつけてきたじゃあねえか」
日比野八重「それはあなたがなんの抵抗も無い人を……!」
烏丸悠斗「お? 何だ? 喧嘩か?」
加賀城マリ「お手並み拝見できるかな?」
日比野八重「えっ、なんですか? マリさんまで……」
そこへかぐやさんが厳かに言った。
神山かぐや「ここのシェアハウスは住人が切磋琢磨し、修練を積む武道の梁山泊として開かれましたわ……」
神山かぐや「ここでは喧嘩が起きたら、拳でけりをつけ、敗者はシェアハウスを去る掟なのよ」
日比野八重「な、なんですって!?」
加賀城マリ「この前の住人もユキヤンが追い出しちゃったんだよねー」
日比野八重(こんなところでも巳雪矢は狂犬ぶりを発揮していたのか……!)
神山かぐや「そんなわけで、これからお二人には決闘をしてもらいますわ!」
日比野八重「い、今ですか?」
神山かぐや「ええ! 今ですわ!」
そんなこんなで私と巳雪矢をはじめ、住人は庭に移動をし始めた。

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