■シェアハウス梁山泊・食堂(昼)
神山かぐや「あら、ちょうど良いところに。こちらは住人のお一人の烏丸悠斗さん。柔道家でいらっしゃるの」
烏丸悠斗「やあ、ご機嫌ようお嬢さん!」
日比野八重「こ、こんにちは……」
日比野八重(一体どれだけの料理が運ばれているのか……)
テーブルについている悠斗さんはちょっとしたたらいのような大きさのお椀をもって、食事中だった。
またしても私はこの光景にあんぐりする。
日比野八重(く、空気イスだ……! この人!!)
烏丸悠斗「ん? ご一緒にどうかね、お嬢さん」
私の視線を物ほしい食いしん坊と受け取ったらしい悠斗さんが誘う。
日比野八重「あ、いえ! 夕餉からご一緒させていただきます!」
烏丸悠斗「そうかね、ハッハッハッ! ではまた会おう!」
ガツガツガツ、と音がしそうなくらいに勢いよく米を食らっているが、何故なのか箸と椀の当たる音がしない。これが、その道を究めし達人の箸業なのか……。
神山かぐや「それでは案内しながらお部屋に向かいますわ」
■シェアハウス梁山泊・中庭の見える廊下(昼)
食堂を出て、廊下に立つと中庭、おしゃれに言えばパティオが見えた。
そこには見上げるほどの大男が庭木に向かっててっぽう、即ち張り手をずしんずしんくり出していた。
神山かぐや「あらもう、やだわ。私のパティオはてっぽう禁止なのに」
大家さんはちょっと怒ったような口調でパティオに下りていった。
神山かぐや「双葉くん、入居者さんいらしてるのよ。ここはダメって言ったじゃあないの!」
日比野八重「双葉……? もしかして、大相撲十両にいた星の海関ですか!?」
???「ウン? いかにもそうですが……」
ゆっくりと振り返れば優しそうな風貌で、まごう事なき本名、星双葉その人だった。
日比野八重「うわあ! ホンモノだ! 私ファンだったんですよ!」
星双葉「そうなんですかあ、ありがとうございます。お見苦しいところをお見せしてしまって、面目ない」
神山かぐや「まったく、本当ですよ。お庭ならいくらでもてっぽうしていただいて構わないって言ったじゃあありませんか!」
星双葉「でもそうすると、ご近所の方からうるさいって苦情が来るんですよう」
神山かぐや「まあそうだったの、困りましたわねえ」
そこへ鼻歌混じりのスキップの足音が聞こえてきた。
神山かぐや「加賀城マリさんですわ。ねえ、マリさん。どうしましょう?」
日比野八重「へ?」
……しかし、人の気配はない。ただ廊下に鼻歌だけが聞こえる。私は背筋が寒くなった。
加賀城マリ「うーん、ソップちゃんのてっぽうは1ヶ月もしたら木を倒しちゃうからねえ。山に籠ったら?」
日比野八重(ソップって……痩せ型力士の星の海関のこと?)
神山かぐや「そうもいきませんわよ」
日比野八重「???」
私はわけもわからないまま辺りを見回した。
日比野八重「あ!」
加賀城マリ「あれ? この女の子は?」
私は目をごしごし擦った。その女性はなんと天井に立っていたのだ。
加賀城マリ「かわいい女の子!」
神山かぐや「新しい入居者さんですわ」
日比野八重「は、初めまして……日比野八重といいます」
マリさんは音も無く猫のように床に着地すると、満面の笑みで私に近寄って来た。
加賀城マリ「初めまして! 太極拳を究めたい加賀城マリだよ、よろしくね」
日比野八重(うわあ、白い手。美人さんだ!)
神山かぐや「あと一人、住人がおりましてよ。たぶん部屋にいらっしゃると思いますから荷物を置いて、あいさつに参りましょう」
日比野八重「はい、わかりました」
双葉さんは再三注意され、稽古場所を移動していった。マリさんも気が付けばまた鼻歌だけしか聞こえなくなっていた。
日比野八重(最後の一人はどんな人なんだろう)
日比野八重(きっと会ったこともない凄い人にちがいない……!)
シェアハウスの内部は外装と相まってスペイン風な造りになっていて、階段を上がって部屋があるという階に着く。

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