走って走って、途中、ぽろぽろともらったナナカマドが道に落ちて転がっていきましたが、キコは振り返らずに駆けていきました。
息が切れて、キコがかごの中身を気にして立ち止まった頃、森は途切れて、お家への道が目の前に横たわっていました。
キコは熱い息をはあはあと繰り返します。
見慣れた森の入口ですが、なんだが今日の森はまるで夢の中のような心地がします。
でもきちんとキコの手の中にはかごがあって、かごの中にはお母さんのおつかいの木の実が入っていました。
キコはきらきら輝くかごを抱え直して、お家に帰ろうと黒い足でまた歩き始めました。
その時です。
「おう、キコ」
低くて大きな声がキコを森から呼び止めました。
そちらの方を向くと、鉛色をした鉄砲を抱えた猟師が二人連れで立っていました。
「親父、キコがびっくりしとる」
「ああ、人間じゃあないぞ。ホンモノじゃあないぞ」
キコが目を見張っている間に、ぽんとちいさな音を立てて二人の猟師には黄金のふさふさした尻尾が生えました。
「あ! お父さんとお兄!」
「おつかいに行っていたんだろ。一緒に帰ろう」
お兄さんがキコの手を取って歩き始めました。
「かごにいっぱいだな」
「うん」
キコは笑顔満面で頷きました。
「親父が心配で心配で、ずっと猟師の格好してキコについていたんだ」
「それを言うならお前もわしについてきたじゃあないか」
二人はわははと大きな声で笑い合っていました。キコはまったく気づかなかったな、と今日の道のりを思い出していました。
「キコはいいつけをよく守ってがんばったな」
お父さんにほめられて、キコはなおさら早く家に帰りたくなりました。お話したいことがいっぱいでした。
「お父さん、春はいつ来るの?」
「うん? 気が早いな」
「春になったらまたおいでって言われたの」
「誰に」
「山姥に」
お父さんはいったんきょとんとしましたが、ふふっと笑いました。
「そうだな、みんなで行こうか。また会えるといいな」
「うん」
三人の影が道に長く伸びていました。

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