「やあ、おばあさん。このあたりでこぎつねを見かけなかったかね。今しがた撃ったと思ったら姿が見えないのだ」
「こぎつねかい」
キコは気が気ではありません。もうここにはいられないと思って、忍び足で戸に手を伸ばしました。
「さあ、見ていないね。あちらへ逃げたんじゃあないか」
「ううん、そうか。ではあちらへも行ってみよう。おばあさん、ありがとう」
「ごくろうさん」
猟師は行ってしまったようでした。
遠ざかる足音が聞こえて来ます。
さてこれからおばあさんはキコをどうするのでしょうか。
おばあさんが縁側に上がるかけ声が聞こえました。
ナナカマドは切り終ったのでしょうか。
キコは困り果てました。戸を飛び出すきっかけを見失って、ただただおばあさんが近づいてくる気配に怯えて立ちすくみました。キコのおじいさんに似たイチョウ色の自分の尻尾が総毛立っているのが分かります。
おばあさんはあの毛皮のキツネをそこにある鉄砲で撃ったのでしょうか。あの毛皮はもしかしたらキコのおじいさんなのかもしれません。キコは自分のおじいさんについてはよく聞かされていませんでしたのでそうにちがいないと思い込みました。
「おやまあ、そんなところへ突っ立ってどうしたんだい」
ああ、おばあさんが帰ってきました。手には枝いっぱいに実をこぼさんとつけたナナカマドを持っています。
「猟師さんはあちらへ行っちまったよ。心配いらないさ。まだそこいらへいるかもしれない。もう少しここにいた方がいいか」
やっぱりおばあさんはキコの毛皮を独り占めしようとしてそう言っているに違いありません。それとも冬支度のために小さなキコを燻製にしてしまうのでしょうか。
「おや、なにをそんなに怯えているんだい。ああ、わかったぞ」
おばあさんはなにがおかしかったのか、また笑い出しました。
キコはその大きな笑い声も歯の少ない口も恐ろしくてたまりません。総毛立っていた尻尾はもう丸く小さくたたんで、長靴だった足は、キコの黒い足に戻ってしまいました。

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